流血女

2月に書いていたやつ。

 

 起床。今月も体調管理アプリを開く。 1週間遅れでやってきた月経の記録を登録しようとした私に、 アプリは妊娠検査薬を勧めてくる。うるさい。 彼氏もいなければセフレもいない私にとって大した用事もないアプリのくせに随分偉そうなやつだ。しかも予想すら外してきた。 頼りにならない。 アンインストールしてやりたいが冷静に考えれば私の体調が悪いの であって、アプリは至って正常。 流血女はどこにでも八つ当たりをする生き物だなあと思う。


 朝の支度を済ませて電車に乗ると下腹部が痛む。よく「 シクシクと痛む」 というような可愛らしい痛さの表現を見かけるが、 そんなものではない。 全身をテグスで縛られているかのような痛さ、気分は煮豚だ。 煮豚は鎮痛剤を探した。一回2錠。 しかしポーチには何故か1錠しかない。 昨日の夕飯も覚えていない私が先月の記憶を持ち合わせているだろうか。これは反語である。記憶力は豚ではなく鳥レベルだった。 そもそも出勤前に飲んでくれば良いものを飲み忘れているのだから 鳥も驚く危機管理能力のなさである。とりあえず飲んだ。


 会社に到着。急いで足りない分の鎮痛剤残り1錠を飲む。 北上する道を覚えている白鳥並みには記憶力が残っているらしい。 仕事をする。豚も鳥も家畜だが、 私は社畜なので電話に出ない後輩の分まで電話対応をして、 システムにログイン出来ない上司の代わりに手続きをした。 仕事をせずに一日中座っている私より30歳上のおじさんに話しか けられるが、 社畜なので業務外の言葉は理解出来ないということにしてシカトし た。 私の育てている新人は私の機微にとても敏感なので今日はあまり話 しかけてこない。流血女の情緒は不安定なまま、 鎮痛剤をヨーグレットのごとく使用して一日が過ぎていく。


 退勤。立春の夕空は明るい。 夕陽より早く帰宅したい私は家路を急ぐ。 日没と共に職場も沈没してくれれば良いなと電車に乗りながら毎日 祈っているが一向に沈む気配はない。


 帰宅。今日も一日が終わった。 何も無事ではないが終われば何でも良い。 正確には終わってすらないがどうせ明日も沈まぬ職場である。 残しておかないとやることがなくなるのでこれくらいがちょうどい い。


 夕食を食べて入浴前にトイレに入る。 ズボンに手をかけて一気に下そうとした私の右手小指がトイレット ペーパーホルダに引っかかって割れた。とりあえず便座に座り、 煮豚より痛い小指を眺めていると血が滲んでいる。 恐る恐る触ってみると微妙に皮膚と繋がったまま割れたようで完全 に剥がれる様子はない。痛い。中途半端とはこの事。 私の人生と同じだと指と子宮から血を流しながら便座を離れる。 悲しい気持ちをお風呂で流したら、 今日は止血の方法を調べて眠ることにする。


鎮痛剤は爪にも効果があるのだろうか。

 

おわり。